
それでも世界は「透明な火」を灯して
| 2007年3月21日 | 旧ブログにて、第一話公開 |
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| 2007年5月11日 | 同、第二話公開 |
| 2010年11月23日 | サイト「透明な火」に移行。修正、加筆。 |
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第一話
第一話
セミの音。夏の途中。学校という閉め切った場所でぼくたちはただ、座っていた。退屈。飽和。こんな言葉が似合う。 飛行機の爆音。流れていく。雲。いつもと変わらない。 担任の声。HR。ハゲ。規則的に並ぶ机。不揃いな中学生の頭こぶ。 何故こんなたった半日もたたないのに学校にいなければならないのか ばしっ 頭に痛み。後ろから叩かれた感触。振り向いたらアキラがにやけた顔でこっちを見ていた。 「似合ってねェのにボケっと空なんか見てんなよ」 早くおわんねェかな。成績なんてどうでもいいしよ」 そう、どうでも良かった。終業式のためだけに、特に用事もないのにこんなクソ暑い日の高い時間に風通しの悪い教室の机に座っていなければいけないなんて。ふざけないで欲しい。成績なんて更にどうでも良かった。 教師の好みで決まるのだから、結果は見えてる。そこまでコビ売ってなかった。 しかし、この忌々しい行事さえ終われば開放的な夏休みが始まる。昼まで寝ていられる楽園が待っている。 それだけなら、別に家でごろごろと過ごしていても良かったのだが、アキラに終業式のあと付き合って欲しいと頼まれたので仕方なくこのうだうだした空気の教室に座ってただ時間の過ぎていくのを感じていた。とにかくいつもの授業よりもつまらない。 時間の流れが遅くなってる。鈍く、最後の残った歯磨き粉のようにうっとうしい。 「そんな退屈なケン君にとッても素晴らしいお話をしてあげよう」 「お前のそのお話は大体つまらない」 「この夏休みの為に、俺は頑張った。どうせプールと海と俺の家しか行動範囲がないケン君の為に!俺の財力の全てを駆使して今夏、銀河鉄道の切符を手に入れる事が出きる!しかもフリーパスだ!」 ほとんど無視されたが、いくつかの言葉が引っ掛かった。アキラの財力の根源はほとんど親父さんなのでこの場合、自腹とは言えない。 アキラの親父さんは有名電子工業会社のトップなのだ。ちなみにぼくの行動範囲はアキラの言うほど限定されてはない。 アキラの家はあまり行った事はないし、最近家族でキャンプに行くのは山だ。他にも図書館とか寄る施設はいくつかある。 「…………………………………銀河鉄道?フリーパス、取れたのか?何年、何十年待ちと言われて座席も高くてセレブな連中しか乗る事を許されないあの高級列車を?」 「これでも俺はセレブな連中の一人なんだがなァ。実は二枚あるんだよなァ。どうしようかなァ……」 庶民なぼくとしては多少カチンと来る一言である。 「なァ、聞くがいくら親父さんの金だとしても切符を手に入れるのは難しいし、どこでどう切符が売られているのか知っている人は数が知れない。親父さんの顔の広さでも辿り着くのは不可能に近い。本当はどうやって手に入れたんだ?」 ぼくの質問にアキラは口をつぐんだ。恐らくオークションかダフ屋で手に入れて、親父さんのお金で支払ったのだろう。だがこの手の切符は偽者が多い。連中につままれた人はたくさんいるし、確認を取るのが出来ないのだ。 指定された場所、時間に列車を待たない限り。 アキラは黙り込んでしまったまま、顔をうずくまって話そうとはしなかった。多分、自己嫌悪に陥っているのだろう。ぼくは後ろに向けていた首を前に戻した。 でも、もし本当ならこんな魅力的な話しはない。夢のまた夢であった銀河鉄道に乗れる機会が来るなんて。この先の運全て使い果たしてしまったのではないだろうか。不幸が続くんだろうなァ。ま、いっか大晦日にリセットされるし。 後ろに気配を戻しても、アキラは話しかけようとはしなかった。嫌だなこの空気。何の為に学校に来たのかわからなくなったじゃないか。付き合って欲しいってのはこれだけのためだったのか?それなら、別にこんな学校でなくたっていいじゃないか。自由だよな、アキラって。 ぽんぽんっ 軽く肩を叩かれた。誰だかはわかっていた。ぼくに話しかける人間はこの教室には一人しかいない。 「ケン、さっきの話しは後で返事してくれ。鉄道の話しは嘘じゃない絶対」 そう言われると余計に嘘っぽくなってしまうのだが。 「帰り、一緒に付き合って欲しいところがあるんだ」 へ? 「どこに?」 「おれがどうしても行きたいところ」 * * * 学校の坂を下り、商店街に通じる道に出る。冬になると、焼き芋屋が学生狙いでここら辺りに店を構えていることがある。 車道を横断すると人優先のU字街道が続く。緑化政策といって道沿いに花壇が並んである。すぐに街道からは向けてしまう。 T字路に分かれて目の前にはフェンス越しに広い高速道路が見渡せる。横断する橋を渡ると今度は下り坂だ。 下町にも似た小さな家を縫うように下っていくと水の流れる音が聞こえる。大きな川があるのだ。 向こう岸を繋ぐ橋は川ほど大きくはないが立派なものである。向こう岸には大きな病院が丘の上に構えてあった。 「おはよう、ケン、アキラくん。」 ドアを開けたら、窓から零れる光に眼をすぼめてしまった。まだ3時過ぎ。夏の日差しは強い。 慣れるまで固まっている間にミユキに挨拶をされた。 「ああ、おはよう。」 |
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第二話
第二話
「おはよう、ケン、アキラくん」 ミユキは血の気がなく少し青ざめた顔でこちらに微笑って見せた。角部屋で窓があるのに雲のように白い顔。 まるで外に出ないようだ。 「ミユキ、前より調子が良くなってるんじゃないか?頬っペの辺りが赤いぞ」 ぼくとの会話では決して聞かない明るい声でアキラはミユキのベッドの横に座った。 病室の子、ミユキは生まれつき体が弱くてぼくが小さい時から家と病院を戻ったり入ったりを繰り返していた。家が近所で、家族ぐるみでの付き合いがあったせいか生まれた当初から知り合いという特殊な間柄にあった。 体が弱い割には大喰らいで、意思が強く、自由を求める気分屋で、病院を抜け出す事も何度かあった。大体の脱走の手引きはぼくで一番に怒られるのもぼくだった。なので彼女とはあまりいい思い出がない。 「そうかなぁ。あのねこの頃調子いいんだ。先生もびっくりしてた」 牛乳みたいに白い顔ではにかむミユキをただひたすらに見つめ続けるアキラ。おいこらあんたまたかよ。 「そっか。良かったな。はいこれお見舞いの」 何気なく差し出した小さな袋を見てミユキはぴくっと眉毛を動かした。 「? なぁにこれ?」 袋から取り出してこれまた小さな箱を開けると砂の瓶詰が出てきた。どこからかの海から持って来たらしい。瓶を宙に持ち上げ転がしながらさらさら流れる砂を見たミユキは感動していた。 「キレイ!うわありがとう!大切にするよ!病人ってだけでこんなの貰えるなんて役得だよね」 気に入った砂の瓶を持てあそばしながら笑顔でアキラに礼を言った。 「そう見舞いの人間を茶化すもんじゃないぞ」 ミユキに指摘しながらアキラの隣に立つ。こいつの後ろにいると何を言い出すのかわからない。とりあえずぼくも買った見舞いの品をベッドの足元に置いた。病院に行く途中の商店街で買った果物だ。ぼくの見舞いにもミユキは喜んで感謝感謝と有り難みのない礼を述べた。幼馴染みなのになんだこの温度差は 「じゃぼくは帰るよ」 すたこらと病室のドアまで歩くと待って、とミユキに止められてしまった。 「もう帰っちゃうの?」 「うん、用はもうないし。アキラ、」 驚いた顔でドアの方に立っているぼくに振り向いた。 「なんだよ」 「日にち、電話してくれよな。じゃあ。」 別れの挨拶もそこそこに病室から病院から逃げるように早歩きで出ていった。 耐えきれなかった。あの重く引きずるような空気に。 「眼中にないんだもんな。付き合いきれん」 病院を渡る橋の途中で小さく呟いた。 ずっと続くと思ってたものがそう簡単に壊れてしまうのはなんとも空しいものだ。 ぼくはずっと変わらぬまま永遠に続くと信じていた。本当の現実をこの目にするまで。 * * * 「病院の時はごめんな」 いきなり謝られた。電話口で。 「い、いや別に気にしてないよ」 「そうか」 ぼくが足早に病院を去ってから夜に、アキラから電話が来た。風呂上がりでポカポカしてた体がすっかり冷めてしまい、楽しみにしていたアイスを取りに行けない状況でぼくは廊下に座りこんでアキラの話を墾々と聞いていた。ウチには何故子機というものがないのか不快である。 「気にするな。でエセ銀河鉄道はいつ行くんだ?」 この一言にアキラは声の色を変えた。 「あっ。それなーチケット今持ってんだけど、学校のB棟の屋上に2時17分発が来るらしいんだよ」 「いつ」 「えーと25日。だから明々後日」 「早っ」 「まぁ夏休み全部使って満喫するには早い方がいいし」 「全部かよ」 課題はいつやるんだいつ。 「たぁのしぃぞぉ~」 そんな夏休みの時にだけはしゃぐ父親のように言われようとどう突っ込みしようもないのだが。 「銀河鉄道…か。一生に一度乗れたらいいなって思ってたものがこうも近いうちに叶えられてしまうと生い先が心配だよ」 「………なぁ、ケン」 何か思い詰めたような声で呼ばれた。告白でもするのか。 「なんだよ。どうしたぁー」 しばらくの沈黙があった。まるで何かをためらっているように。 「俺は間違ってないよな」 何の事か思い当たる事が多すぎるのでどう答えていいのかわからなかったが平均的に当たりそうな答えを言ってみた。 「自分の思った通りに進めばいいさ」 「ありがとう。じゃ明々後日に学校の校門前、1時に」 静かに電話は切れた。ぼくはゆっくりと受話器を降ろす。溜め息もこぼれる。 「複雑な性格してるのかな、おれって」 電話機の横に座ってみた。物思いに老け込みやすくなってる。まだ中学生なのに。 「お兄ちゃん、アイスいる?」 いきなり妹が現れた。こいつ立ち聞きしてたんじゃなかろうか。 「なんだ、びっくりしたなぁ。うん、食べるよ」 やはり、この時ぼくは間違った答えを言ってしまったらしい。ぼくは嘘つきだった。 |